12 February 2017

顧客中心のエクスペリエンス時代”を企業が生き抜くための「戦略としてのデザイン」とは?

この記事は、Bizzine.jp からの転載記事です。Design As Strategy シリーズの第2回の記事となります。オリジナルのサイトで読むには、こちらからどうぞ

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ユーザーエクスペリエンスの質は、かつてないほど重要視されてきており、これからのビジネスの成長のためには避けて通れないものとなっている。これまでの連載では、デザインやDesignitの戦略的デザインプロセスがどのようにビジネスの成長に寄与するのかを見てきたが、本記事では、今日の顧客にとってなぜ経験が重要になってきているのかについて、私たちの過去の事例も交えながら考えたい。

“エクスペリエンスの時代”へと舵が切られたと確信できる「3つの変化」

最近ふとカフェに行って、スタッフがあなたに気づいてくれたときのことを思い出してみてほしい。温かくて、なんとなく地元に帰ってきたような感覚を覚えたのではないだろうか。行きつけの美容室に行って、美容師に「いつも通りでいいですか?」と聞かれたときはどうだろう。あるいは、特別な予定のために服を買いに行き、ショップ店員がマニュアル通りではない、自分なりの視点で熱心にアドバイスをくれたときはどうだろうか。Tシャツ1枚をただ買いに行った店で思いがけず素晴らしいサービスを経験すると、あなたはその店に親しみを覚えるようになり、また同じ店に買い物をしに行く可能性は驚くほどに高くなるのだ。

フォレスター予測によると、2017年には3分の1以上の企業が顧客中心の経営に舵を切るようになるだろうとしている。企業が顧客に良いサービスを提供することが重要であること自体は新しい考え方ではないが、「経験の質」を考えることがかつてないほど重要になってきており、以下に述べるような象徴的な変化を例に出すとわかりやすいだろう。

1:ミレニアルズの消費傾向
人々のお金の使い方は劇的に変化した。特に「ジェネレーション・ミー」とも呼ばれるミレニアルズ(10代からスマホやインターネットを使いこなす20代を中心とした世代)は、ブランドにはこだわりがなく、自己実現の手段としてその商品がどのような気持ちにしてくれるのかを第一に考える。Eventbrite社(イベントのオンラインチケット販売サービスを提供)の最近の調査でも、ミレニアルズの78%は物理的なモノを所有するよりも、体験型の商品にお金を使いたいと考えていることがわかった。

2:マイホーム購入年齢が上昇する本当の理由
初めてマイホームを購入する人の平均年齢は欧米諸国において上昇し続けているが、これはインフレと世界的な金融危機だけが理由ではなく、「探せばいつでもよりよく住める場所が見つかるのに、なぜ家を買ってそこに一生住み続ける必要があるのだろう?」と考える人が増えているのだ。

3:「所有」から「シンプル、利便性、即時性」の価値観へ
自動車産業もこのような傾向に苦戦している。若い世代は、ピカピカの新車にお金を使うよりも、1時間や1分という単位で車を借りられるサービスを好むようになっている。新しい価値観は、所有ではなく、シンプル、利便性、即時性である。

[新訳]経験経済』 / B・J・パインII (著), J・H・ギルモア (著),ダイヤモンド社

パインとギルモアが1998年に予測したように、これらすべての変化が、 世界的にエクスペリエンス・エコノミーに向かっていることを裏付けている。従来通りの「所有」を求める顧客像は、「利用」を好む新しいタイプの顧客像に移り変わってきており、人々はいかなる場面においても“頭を悩ませる必要のないサービス”を求めているのだ。

この世界的な変化に乗じて、様々なスタートアップが知識やモノやサービスを、素晴らしい経験を通して提供しはじめている。彼らは、楽しく、妥協することなく利用できるという、人々の本当のニーズに基づいて強固なビジネスを築いているのだ。

このような状況においては、資産やインフラの所有の有無だけではなく、バリュー・プロポジション(提供価値)の見直しをいかに早く繰り返し行うことができるかということが重要だ。規模が小さくとも、ユーザーエクスペリエンスに注力している企業は、全ての産業に対して挑戦状を突きつけている。なぜなら、スタートアップが築いているユーザーエクスペリエンスの高い基準のもとで、既存のビジネスも評価をされるようになってきているからだ。

 

Audiのショールームにおける、素晴らしいエクスペリエンスの作り

では、あなたがエクスペリエンスに基づいたビジネスを立ち上げることにしたとしよう。そのためには何が必要だろうか? 前述のパインとギルモアから引用すると、「入場料をとるためには、どうしたら良いだろうか?」と言い換えることができる。

エクスペリエンス・エコノミーでは、 顧客に提供する価値は本質的で、シンプルで、わかりやすいものでなければならない。そして、顧客にとって価値が高いものを提供するためには、彼らのことを深く理解する必要がある。そのために効果的なのが、顧客中心デザインプロセスとKPIを持つチームを作ることだ。簡単に聞こえるかもしれないが、これを正しく行うためには相当の覚悟をもって時間をかけて取り組んでいかなければならないのだ。これまでにあった本当に良い経験を思い返してみても、シンプルで直感的なものだったのではないだろうか。

前回の記事でも紹介したように、Designitでは、5つのステップ*からなる戦略的デザインプロセスを用いて、クライアント企業にシンプルで、意味あるソリューションを提供している。イスラエルの新しいユーザー層に提供する金融サービスから、チェルシーFCとファンの関係性の再定義まで、このプロセスを通してユーザーの経験を素晴らしいものにするために鍵となる要素を見極め、デザインし、洗練させていく。並行して、きちんと収益性のあるソリューションにするためのビジネス上の意思決定も行っていく。

*5つのステップ: 1. ディスラプティヴ・インサイト、2. フューチャー・ビジョン、3. エクスペリエンス・ロードマップ、4.エクスペリエンス・デザイン、5.コンティニュアス・デリバリー(詳細は、前回の記事を参照)

実際に私たちが行ったプロジェクトを事例に解説をしてみよう。

例えば、Audiと取り組んだプロジェクトでは、Audiは、「スペースに限りがあり、多くの車を展示することが出来ない都市部のショールームにおいて、販売を伸ばすにはどうすれば良いだろうか?」という課題を抱えていた。プロジェクト開始後すぐに私たちは、今回のショールームは従来のようなものでも、従来通りの顧客層をターゲットにしたものにもならないだろう、ということに5ステップの戦略デザインプロセスを通して気がついた。

そして結果的に、訪れた人が自然とスタッフやデジタル機器、そして手にとって見られるサンプルと触れ合い、楽しみながらAudiの様々な商品ラインナップを探索できるようなデジタル・ショールームのコンセプトをデザインした。

第三者のリサーチ会社の調査によると、このデジタル・ショールームは通常のショールームに比べて、初めてAudiを購入するユーザーが多く、さらに付属品の購入額も著しく増加していることがわかった。

エクスペリエンスの質を左右する要因のひとつに、サービスの構成をどのように捉えるか、ということがある。つまり、ひとつひとつのシナリオやタッチポイントを集めるだけでなく、各要素同士の関係性まで深く考えることが必要なのだ。プロジェクトを行っているチームは、それぞれの要素を理解するだけでなく、要素がどのように繋がって全体的なサービスを構成していくのかという視点を持つことが、良いエクスペリエンスをデザインするうえで重要なのだ。

 

ブリュッセル航空のラウンジにおける「期待を“はるかに超える”エクスペリエンス・デザイン」はどのように生まれたのか?

もう一つ事例を見てみよう。Designitは、ブリュッセル航空の新しいラウンジのコンセプト「ロフト」をデザインした。「ロフト」は、実際の空間とデジタル上のエクスペリエンスが上手く融合したコンセプトだ。数多ある他社の空港ラウンジとの違いを明確にするためにも、様々な角度から「ラウンジでの経験が期待通り良い、というものから期待を超えて素晴らしいというものにするためにはどうすればよいのだろうか?」という問いに取り組んだ。それだけでなく、「特別なエクスペリエンスを提供することによって、ブリュッセル航空のビジネスに、長期的な効果をもたらすにはどうしたら良いだろうか?」という視点も考慮した。

このようなサービスをデザインするときには、建築、インテリア、テクノロジー、サービスの提供、と分野ごとに分けて考えるのが一般的だが、私たちは強固なブランド・エクスペリエンスを提供するためにも、各分野の壁を超えて全体的なアプローチで取り組んだ。

また、もともとのプロジェクト範囲であったラウンジでの経験だけに留まらず、「コネクテッド・ラウンジ」と呼ばれるデジタル上での経験をデザインする機会にも恵まれた。このアプリ上では、利用者がラウンジで受けられる様々なサービスの選択やカスタマイズをすることが出来る。例えば、前のフライトで見ていた映画の続きから見ることができたり、事前にシャワールームや仮眠部屋の予約ができたり、そして次のフライトやラウンジ内で受けられるサービスの種類を確認したりもできる。

この「コネクテッド・ラウンジ」のコンセプトを提案するにあたってDesignitは、ブリュッセル航空とマイクロソフトがパートナーシップを築く手伝いもし、新しいビジネスモデルのための基盤を確立することが出来た。マイクロソフトによって、常に新しいモデルのタブレットを通した素晴らしいエクスペリエンスの提供が可能になったのだ。

少し周りを見渡してみると、チャンスは無限にあることに気がつくだろう。あなたの会社のサービスにおいても、いくつかの具体的なタッチポイントを改善することが出来るかも知れないし、もう少し踏み込んでサービス全体に対しても考えることが出来るかも知れない。しかし1つ言えることは、どんなものであっても、全て顧客中心の考え方でなければならないということだ。未来は、驚くほど素晴らしい経験を提供することに本気で取り組む覚悟を持った企業にのみ、開かれているのだ。

次回は、ヘルスケアにおける戦略的デザインについて、事例を交えながら考えてみたい。

 

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