20 December 2016

連載・コラム > Design as strategy 戦略的デザインプロセス――組織を変化させ、イノベーションを生み出すためのレシピ

この記事は、Bizzine.jp からの転載記事です。Design As Strategy シリーズの第1回の記事となります。オリジナルのサイトで読むには、こちらからどうぞ

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なぜ、デザインプロセスを考える必要があるのか

「デザイナー」といえば ポスターなどのビジュアルや、家具などのモノを作る人であると一般的には考えられているが、第一回でも記載したように、この数十年の間にデザインが扱う領域は広く、より複雑なものとなった。デザイナーはモノの見た目を良くするだけではなく、それらがどのようなサービスや組織の中で使われるのかというところまで踏み込んで考えることが求められるようになってきている。

デザインとは本質的に、無駄を削ぎ落とし、課題を解決し、人々にとって意味のある経験を作り出すことである。かつて、デザインは1人の優秀なデザイナーの嗜好や判断に依拠して行われていたが、今はより協働的かつ戦略的なものに変わってきている。デザインという言葉自体も、デザインされた結果のみを指す名詞的なものから、どのようにデザインするのか、という動詞的な意味も含むようになった。また、デザインするプロセスが適切な結果を導けるかどうかに大きく影響すると考えはじめたデザイナーたちも、そのプロセスを一層重視するようになっている。

もちろん、プロセスがなければデザイン出来ないということではないが、正しく行うことは難しくなる。デザインプロセスというフレームワークがあることで、制約条件を全て考慮しながら正しい課題に取り組み、ユーザーのニーズに沿った、かつ実行可能なアウトプットを導く可能性が高まるのだ。

また、一口にデザインプロセスと言っても、目的や予算、リソース、そして関わるデザイナーによっても変わってくる。これまでにも様々なデザインプロセスが提唱されてきたが、その中でもよく知られているものに英国デザイン・カウンシルのダブルダイヤモンドと米国スタンフォード大学d.schoolのデザイン思考プロセスがある。ダブルダイヤモンドは、各フェーズにおいて発散と収束を繰り返すことが重要であるとしているし、d.schoolのプロセスではユーザーへの共感と早い段階から簡易的なプロトタイプを用いたユーザーテストに重きを置いている。

このようなデザインプロセスは、特定の分野や企業でとられているアプローチや哲学との兼ね合いによっても変わってくる。例えばソフトウェア開発の分野においては、アジャイル開発などと共存するプロセスが求められるし、事業開発においては、リーン・スタートアップモデルのようなフレームワークと組み合わせて使われる。

Designitでは、「戦略的デザインプロセス」と呼ばれる5つのステップからなるプロセスを用いて、クライアント企業が未来を描くサポートをしている。このプロセスを通してユーザーの新たな経験を企業の戦略に沿ってデザインし、技術によって実現することでビジネスを成長させるのだ。

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1. ディスラプティヴ・インサイト

Designitでは、イノベーションは人々のニーズに基づいて起こるべきであると考えている。今日、成長を続けているほとんどの企業も、顧客の経験と生活の向上を第一に考え、真摯に取り組んでいるところだと思うし、私たちも同様に考えている。

人々がどのように製品やサービスを使用し、どのようなニーズや期待を持っているのかを理解するためには、エスノグラフィー調査、インデプス・インタビュー、フォーカスグループや参加型のユーザーリサーチなどを用いて、人々の生活の中に入り込んでいく方法が考えられる。

例えば、若い世代に向けた新しい銀行の形を考える際には、彼らがどのようにお金を管理し、支払い、そして、彼らにとっての「価値」とは何であるのかということを考える。それだけに留まらず、その世代の人々が普段どのような製品やサービスを好み、日々どのようなことに悩み、どのような希望を持っているのかというような価値観を含めたところまで探ることで、共感を形成していくのだ。

このようなプロセスを経て得られた人々に対する理解と、企業のビジネス上の目標、マクロトレンドやマーケット分析、そして最新の技術を組み合わせて考えることによって、新たな機会を探っていく。先程の若い世代に向けた新しい銀行の例に戻ると、「デジタル・ネイティブ世代のモバイル上の行動に合い、彼らがお金を最大限活用する助けとなるような新しい銀行のあり方とは何であろうか?」というように考えることができる。

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2. フューチャー・ビジョン

価値あるイノベーションを生み出すためには、各ステークホルダーが同じビジョンを共有している必要がある。それは例えば、自社のことをどのように顧客に言ってもらえるようになりたいのか、顧客の生活や社会の中でどのような役割を果たしたいのか、そして、毎朝社員にどのような気持ちでオフィスに来てほしいのか、という問いに対して同じ考えを持っているというようなことだ。

なぜそれが大切かというと、組織の一人ひとりが同じ目的に向かって進んでいるときにこそ、イノベーションのインパクトと効果が最大化されるからだ。そのために有効なのが「アイディエーション」と「ストラテジック・ワークショップ」を繰り返し行うことである。アイデアの発散とコンセプトへの収束の間を揺れ動きながら、人とビジネス双方のニーズに応えるようなビジョンへと磨いていくのだ。

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3. エクスペリエンス・ロードマップ

フューチャー・ビジョンが定まった後は、目指すべきカスタマージャーニーを作っていく。顧客の一連の経験がどのようなものになるべきか、そのために企業側はどのようなことを提供しなければならないのか、あらゆる側面を考慮しながら考えていくことでビジョンの全体像を把握することが出来るのだ。また、顧客に直接関わるレベルから組織構造の変化に至るまで、理想とする経験を提供するために必要な、大小様々な変化を可視化することも可能にする。

しかし当然ながら、初めから全てを変化させ、数週間後には全く新しい顧客経験を提供することは出来得ない。イノベーションの可能性を最大化するためにも、ここで経営層がしなければならないことは、全体を見据えながらも野心的かつ現実的なアクションプランを立てることだ。例えば、カスタマーサービス向上のためにバックエンドシステムから改善すべきなのか、それとも店頭での小さな改善から試してみるべきなのか、または全く新しいデジタルプラットフォームを立ち上げるべきなのか。プロジェクト全体のアクションプランを作成することで、各ステークホルダーが基本となる未来の顧客経験を共有し、それを実現するためにはまずはどこからはじめれば良いかを決める助けとなるのだ。

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4. エクスペリエンス・デザイン

どんなに素晴らしいビジョンやロードマップを描けても、それがきちんと実行されなければ変化を起こすことは出来ない。コンセプトが、物理的に見て触れて、使えるようなビジュアルやデジタルのソリューションになって初めて、ビジネスの変化を起こすことが出来たと言えるのだ。

そのためには、プロトタイプを用いたテストを繰り返し行い、ターゲットとするユーザーにとってソリューションが本当に使いやすく、求めているものであるかということを検証する。これによって、ビジョンを一つ一つのタッチポイントに落とし込んでいくことが出来るのだ。例えば私たちが通信会社の店舗での経験向上を考えた際には、スタッフ側のタスクを350ものステップに分け、それぞれのステップに関するアイデアを実際の店舗を用いて繰り返しテストことで有効なフィードバックを得ることができ、結果を最適化することが出来た。

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5. コンティニュアス・デリバリー

真の意味でのイノベーションは一夜にして達成されるようなものではなく、取り組み続けることによってのみもたらされるものである。しかし、実際は優先順位の変更や短期的な思考、総意を求めることなどによる変更が生じることもしばしばある。ソリューションを形作り、改善しながら市場に投入すること自体がチャレンジなのだ。

また、ユーザーの経験を向上させるようなソリューションを提供する際には、組織の改編も考えなければならない場合もある。例えば、それまでほとんどコミュニケーションをとることがなかったような部署同士が、日々の業務レベルで協力しあっていかなければならなくなるかもしれないし、新しい専門の部署を一から作らなくてはならないかもしれない。社内に、継続的にユーザーにとっての経験を評価、分析、改善していくような組織を持つということが、変化を本当の意味で起こしていく出発点となるのだ。

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これまで、Designitの戦略的デザインプロセスを、ひとつずつ5ステップ分紹介してきたが、これはどのような企業のどのようなプロジェクトにもそのまま当てはめて使えるようなものでは決してなく、それぞれの条件に合わせて柔軟に変えていくことが重要となる。

例えば、 ビジョンとロードマップを明確にし、各ステークホルダーが同じ認識を持つことがなによりも重要な場合は、このフェーズに重点を置くし、とにかく迅速にある程度高い精度のプロトタイプを期間内に作ることが重要な場合は、そこに合わせることが一番重要となる。このように、企業の文化やプロジェクトの目的に合わせてプロセス自体をデザインすることも、プロジェクトにおける重要な要素のひとつなのだ。

戦略的デザインプロセスは、私たちDesignitが設立から25年に亘りデザインを用いてイノベーションを行ってきた結果生まれたものだが、これは確立されたものではなく、企業やデザイナーが直面する課題に合わせて進化し続けていくものである。

また、プロセス自体は、単なるレシピのようなものに過ぎないということを忘れてはならない。それを実行する人が材料、企業の文化が調味料だとすると、材料の味を最大限引き出せるような環境を整えることが大切であることがわかる。誰もがアイデアを気兼ねなく出すことができ、たとえ上司の考え方と合わないことでも発言することが推奨される。多角的な視点を得るために他のメンバーや部署、企業をも巻き込むことが許されるし、失敗は避けるべきものではなく、そこから学ぶことのほうが大切であると考える。このように、材料である人の力を最大限引き出せる環境がなければ、どんなに素晴らしいレシピを作れたとしても、それはただのレシピに過ぎないのである。

次回は、製品やサービスだけの改善ではなく、意味あるユーザー体験を作るために投資すべき理由を、成功している企業の事例を交えながら考えたい。

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