30 November 2016

Design as strategy ~「戦略としてのデザイン」が、なぜ重要なのか?

この記事は、Bizzine.jp からの転載記事です。Design As Strategy シリーズの第2回の記事となります。オリジナルのサイトで読むには、こちらからどうぞ

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イノベーションを起こすためのツールとしてデザインを取り入れてきた企業は、業界内外における確固たる地位を築き、長年にわたり輝かしい業績を残している。昨年発表されたDMIデザインバリュー・インデックスによると、 デザインを重要視している企業はS&P500の指数を過去10年間で219%も伸ばしている。

KPCBのデザイン・パートナーを務めるジョン・マエダ氏も「Design in Tech」というリサーチ・レポートにおいて 、 デザイナーによって設立された会社で、後にGoogleやFacebook、Yahoo!、Adobe、Dropbox、LinkedInのような名だたる大企業によって買収された企業は、2010年以降だけでも27社にのぼるとしている。

また、世界中で戦略コンサルティングファームや広告代理店、IT企業や銀行までもがデザイン・スタジオの獲得に乗り出し(かくいう私たちDesignitも昨年、世界トップのITプロバイダーの一つであるWiproの傘下に入った)、IBMやGE、P&Gなどの大企業もデザイナーを経営幹部に迎え入れ、社内に強力なデザイン組織を構築しようとしている。

このように、多くの企業や組織が切望するような強みを生み出すデザインとは、一体どういうものなのだろうか? いまそれを考えることが、なぜ重要なのだろうか?

良いデザインとは、「人々にとって重要かどうか」を突き詰めて考えていくこと

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デザインとは見た目を美しくすることによって、魅力的で楽しいものを生み出すことである、という考え方が未だ一般的だ。これは、デザインを語る上で正しく、重要な要素であることに間違いはない。しかし、これだけでは最も重要な点を見逃してしまっていることにもなる。

ジョン・へスケット教授はかつて、デザインを以下のように定義した。

“デザインとは人々のニーズを満たし、生活に意味を与えるためにその人たちをとりまく環境を形作っていく人間の能力のことである。”

デザインとは本質的に、人々にとって本当に重要なことは何であるのか、ということを突き詰めていく作業である。つまり、人々のニーズに合ったプロダクトやサービス、そして経験を作り出し、それによって生活を豊かにしていくこと、それがデザインなのである。一見すると至極当たり前のことのように聞こえるが、これが真実であり、だからこそデザイナーたちは日々、ものごとをいかに良くしていくかということに愚直に取り組んでいる。

そう考えると、デザインとはデザイナーの自己表現の手段としてオリジナリティーを追い求めて行うものではなく、人々が希望や目標を達成する手助けをするために行うものであることがわかる。また、デザインにおいてはシンプルさが重要であると考えられているが、それはプロダクトや経験が、生活の邪魔をせず、溶け込んでいくようにするためである。

本ページの最後に、伝説的なデザイナーであるディーター・ラムスの言葉が、「デザイン」を端的に言い表しているので引用したい。

“良いデザインとは、出来る限りデザインしないことである。”

成果物の背後にある、“舞台裏”としてのデザイン

デザインを考える時、多くの人はまず、プロダクトやサービス、空間やインターフェイスと言った成果物を思い浮かべるのではないだろうか。しかしあまり知られていないのが、それらを実現するためにデザイナーやステークホルダーが実際に使用しているデザインプロセスである。プロセス自体はプロジェクトや企業のニーズに合わせて柔軟に変えていくが、その根底にある基本原理は不変であり、ソリューションの価値を担保しているのだ。

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ヒューマン・インサイト

一般的にデザインプロジェクトは、対象となる領域を深く理解する事から始まる。デザイナーは、特に人に関する要素に焦点を当て、ユーザーやスタッフなど関わる全ての人の行動やニーズを詳しく調査していく。人々が日々の生活を送っている文脈や文化を深く理解することから共感が生まれ、一般的な企業が用いるような定量的な理解とは異なるアプローチをとることが可能となる。

協働的、そして全体的なアプローチ

従来、企業は縦割りの組織によって構成され、各部署は顧客体験の一部分のみを担ってきた。例えばウェブサイトと、カスタマーサービス、そしてマーケティングはそれぞれ別の部署が担当し、必ずしもお互いに密な連携をとっている訳ではない。その結果、顧客体験は一貫性を欠き、全体としての質が低いものになってしまっていることもしばしば見受けられる。一方デザインプロセスでは、関わる全てのステークホルダーを巻き込むことで、この縦割りの思考に終止符を打ち、顧客にとって一貫したブランド体験を作り出すことが出来る。

何度も繰り返す

アイデアは、関わる人々にとって重要かどうかが証明されて初めて価値を持つものであるため、デザインプロセスでは、アイディエーションとプロトタイピングを何度も行き来しながらソリューションの確度を高めていく。その過程ではもちろん上手く行かないこともあるが、失敗を初期段階、かつ低コストで見極められることが正しいソリューションにたどり着く近道になる。だからこそ、私たちは失敗とは避けるべきものではなく、より早く学ぶことの出来る重要なプロセスであると考えている。そして、このような繰り返しを経ることで、考えることと実行することのどちらに偏ることもなく、両者を上手く噛み合わせていくことが出来るのである。

デジタル化した世界でビジネスを成功させる「変革のためのデザイン」

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Because it focuses on the relevance of ideas and systems, design – and its underlying process – is a powerful catalyst for innovation. It helps companies envision what to make tomorrow and bring that vision to life, helping them to remain relevant in a fast-changing, digitalized world.

Think about when was the last time you had to search more than 3 minutes online to find a restaurant? A recipe? To order a taxi? Think of how easy it has become to get access to any kind information almost instantaneously and how simple it is to get things done. There is a new, mass expectation for good design across all industries. Whether it’s a bank, a telecommunications operator or a transportation system, customers expect it to be as simple and usable as their favorite smartphone application. Say goodbye to complicated user interfaces, to wafting lines and helpless customer service; they don’t belong in a society that has adapted to the standards of the digital world. People expect products and services to be better thought through, intuitive, elegant, and they now have plenty of new options to choose from.

Good design is not a nice to have anymore. It’s a mandatory condition for success.

Design for transformation

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今まで述べてきたように、デザインとそれを支えるプロセスは、最終的なアイデアが人々にとって本当に重要かどうかということに重きをおいているため、イノベーションを強力に促進することが出来る。特に変化の激しい、デジタル化された世界で取り残されないために、企業が未来に向けて何をすべきなのか、そしてそれを実現するにはどうすれば良いのか、という問いに対する答えを導く助けとなる。

例えば、レストランやレシピ、タクシーなどを探すために5分以上検索に時間を費やしていたのは、いつが最後だっただろうか? ここ数年でいかに必要な情報を即座に得て目的を達成するのが簡単になったかを考えてみて欲しい。このような良いデザインに対する大きな期待は全ての業界に広がっている。銀行やコールセンター、そして交通機関など業界やサービスを問わず、ユーザーはスマートフォンのアプリと同じくらいシンプルで使いやすいものを期待している。デジタル化された社会のスタンダードに合わない煩雑なユーザーインターフェイスや使いにくいカスタマーサービスとはお別れしよう。現代のユーザーが求めているのはより直感的で簡潔なプロダクトやサービスであり、彼らが数え切れないほどの選択肢に囲まれていることを忘れてはならない。良いデザインとはもはや「あれば良いもの」ではなく、成功のための「必須条件」なのである。

いま、ビジネスはかつてない程競争が過熱し、 変化し続けることは企業にとって不可避となっている。これまで安定成長していた企業にとっても脅威となる、新しいパラダイムの到来であると言えるであろう。

このような世界において、デザインを戦略レベルで捉えることは、企業に変革をもたらす強力な原動力となり得る。デザインを単なるツールとしてではなく、本質へと導いてくれるフィロソフィーとして捉えている企業は、プロダクトや組織、プロセス、そして時には企業のミッションをも絶えず再考し、最適なユーザー体験を提供していくことが出来る。

ユーザーを第一に考え、縦割りの思考をやめ、トライ&エラーの文化を形成していく。このようなプロセスを積み重ねている企業は、新たなパラダイムに取り残されることなく、持続的な成功を収めていけるのである。

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デザインが価値ある戦略的な資産である理由、それはかつてない変化が起きている現代において、企業が社会のニーズに即した存在であり続ける上での、欠かせない存在であることに他ならない。

日々、最良のプロダクト、サービス、そして体験の創造に取り組んでいる企業は、業界をリードしていくだけでなく、社会全体をも進歩させていくのではないだろうか。そして、人々がものやサービスに適応するのではなく、私たちDesignitが「human-shaped world」 と呼ぶような、 すべてのものが人々のためにつくられ、ニーズを満たしてくれるような世界を作っていくことに貢献していくのではないだろうか。

次回からは、戦略的デザインの詳細に話を移し、デザインを戦略レベルにおいて使用するためのメソッドやツール、マインドセットなどを見ていく。そして、ヘルスケアや銀行、そして小売などにおける実際の事例を通して、デザインがどのように組織を改革する助けとなるのかを考えていきたい。

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