31 August 2017

従来型の銀行サービス”が終焉に向かう時代に、デザインが変革で役立つコトとは?

この記事は、Bizzine.jp からの転載記事です。Design As Strategy シリーズの第1回の記事となります。オリジナルのサイトで読むには、こちらからどうぞ

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銀行の機能は必要だが、いまある銀行は必要なくなる。

ビル・ゲイツ (1994年)

ビル・ゲイツが語ったこの言葉は、今まさに起こっている Fintech (フィンテック) 革命を予言したものだと言える。銀行家の息子でもあるゲイツは、銀行が重要な信用機関であるのはもちろんだが、しかしそこで最終的に取り扱われるのは情報である、ということに気が付いていたのだ。そして時代とともに、情報を取り扱うための手段はより早く、より良く、そしてより安くなっていくのは明白だ。

ずたずたにされる銀行

資産運用の相談、資金の移動、カード、ローン、モバイル決済、オンラインバンキング、取引の仲介など、これまで銀行の業務として考えられてきたサービスの代わりとなるものはいまや溢れんばかりだ。銀行同士でのサービスの競争だけではなく、若いエンジニアやデザイナーのチームによって運営されるサービスが日々生み出されている。

これは他の業界にでも当てはまることだが、これらの新しいサービスは、既存のサービスを包みこむ新たなレイヤーとして存在する。API 革命や B2B の卸売など、サービスやインフラが規格化され商品化されることで、小さな会社でも大企業と競争することが可能となった。

自らの存在を、潰れるには大きすぎる、ととらえる銀行業界が未だに見落としているのは、デジタル化が進む現代において、その大きさにはあまり意味がないということだ。いまや業界は無数の競争相手とのゲリラ戦に巻き込まれつつある。そしてその競争相手は、これからのターゲットである若い世代の利用者と同じ言葉を操つる上に、動きも早い。

銀行は透明性が欠如し、私たちを欺く。だから、Transferwiseが存在するのだ。

Taavet Hinrikus, Transferwise 創業者兼CEO

“ダビデとゴリアテ” 的な、小さな者が大きな者を倒すという痛快な構図もこれらのスタートアップの成功の原因のひとつとしてあげられるだろう。若い世代に特化した新しいサービスが支持される一因として、漠然とした銀行に対する不満が存在している。そうした不満のほとんどは購買行動の進化に起因している。

 

消費者は、”おそすぎる従来型の銀行サービス“を待たないし、銀行業務の独占権は失われつつある

スマートフォンへの依存に後押しされた消費行動の変化が、世界中で起こっている。

中国ではフィンテックによる決済が全体の 52% を占める。

Neal Cross, CIO of DBS Bank

家を出るときに鍵と iPhone しか持たない人も多い中国では、便利でいつでも気軽に使える決済の手段は、単により好ましいオプションというだけではなく、信頼できる当然の方法として浸透している。自転車を借りるのも、タクシーに乗るのも、買い物に行くのも、支払いは全て Wechat だ。

人々は検索して一瞬でアクセスすることに慣れてしまっている。これはただ単に情報にアクセスできるということだけではなく、アカウントを取得してオンラインサービスの利用をすぐに開始できるということでもある。

これらの新しい会社の躍進を支えているのが、利便性の向上にあることは間違いない。自らのサービスをより経済的な選択肢として売りにする会社もあるが、ほとんどのサービスは、特定の不満を解消することに注力したものだ。

ソリューションを特定のものに特化させ、できるだけシンプルなものとして提供することで、これらのサービスは競争力を保っている。簡単にサインアップでき、魅力的なブランドイメージもおまけでついてきて、使いやすさや素晴らしいユーザー体験といった、今日の銀行に一番足りない部分にサービスを集中させている。
 

ソフトウェア会社化する銀行、銀行業務の独占権をシリコンバレーに奪われる

インターネットの普及によるテクノロジーの変革なしには、この時代の変化を語ることはできない。特に、ここ近年のクラウド・システム、ビックデータ、そしてブロックチェーンなどに代表される新しいテクノロジーは、銀行業界に大きなうねりをもたらしている。

銀行は銀行業務の独占権を失いつつある

Francisco González, BBVA 代表取締役社長

ソフトウェアのエンジニアとしてキャリアをスタートした González は、スペインの大手銀行であるBBVA の業務構造に大きな変革をもたらした。彼はいち早く IT 大手との対決姿勢を明らかにし、根本的な変革なしにはアップルやグーグルやアマゾンなどと競争することはできないと唱えた。

現在では、7000万人の顧客を抱える同行は、業務のデジタル化において大きな成功をおさめている。これは、真の顧客ニーズの把握と理解に努め、各部署と、 600人ものエンジニアたちが日々新たなソリューションを提示することで、素早い改善を行なっている賜物である。

2017年半ばにフォレスター・リサーチが発表する “2017 Global Mobile Banking Benchmark” では、BBVA はモバイルバンキング部門での最高スコアを記録した。先ごろ行われた MoneyConfで González が明かしたところによると、BBVA の売り上げのうち 24% がデジタル関連によるものということだ。そしてこれはまだ始まったばかりなのである。

銀行は信頼があるから今後も安泰だと思い込んでいた。その根拠となるのは、名の通った自らのブランド力と、顧客の資産を安全に守ることができる大きな金庫を保有しているからであった。

しかし今後はそれだけでは通用しなくなる。なぜならブロックチェーンがその信頼の根幹を揺らがしているからだ。中央集権化されることのない安全なネットワークが確立されることになれば、銀行の役割はさほど重要ではなくなる。そして、ブロックチェーンがユーザーにとって使いやすい方法として広がり成熟するほどに、銀行はより早く次の手を打たなければならなくなっている。

2016年の FinTech 関連ベンチャー企業への世界の投資額は 11% 増の 174億ドルだった。金融業界は新たなソリューションを開発すべくスタートアップへの投資を強めており、なんとか近い将来にも自らの立ち位置を確保しようと躍起になっている。

ほとんどの国が状況を静観している中、日本はブロックチェーンを歓迎する動きを見せている。つい最近に発表された仮想通貨(ビットコインなど)の譲渡に係る消費税非課税に続き、ブロックチェーンによる資金調達も検討されている。

民間では、ブロックチェーンによる即時決済を可能にする Ripple をサポートするために、 61の金融機関(日本の金融資産の80%を占める)が内外為替一元化コンソーシアムに参加することが決まっている。数日前には、日本の SBI とタイのサイアム商業銀行との間で、初の送金が行われ、他を経由することなく、わずか 2秒で無事に着金した。

さらに、仮想通貨への資産の移動も世界中で始まっている。時価総額 1,000億ドルという規模はまだ小さいと言えるものの、これは始まったばかりであるということに異論の余地はない。

大小様々な小売店や、あらゆる国の政府が仮想通貨の標準化を検討しはじめている。すでに仮想通貨の保管、移動や交換に関するかなりの数のサービスが存在するが、そのほとんどは銀行とは無関係だ。人々が自由に価値のある資産を保管し移動できるようになった時、この大組織の担う役割とは果たしてどのようなものとなるであろうか。
 

旧来型の銀行サービスにイノベーションを起こす、デザインプロセスの力

日本企業はいま絶好の機会に恵まれ、岐路に立っている。現代は大きな変化が光速で起こる時代だ。これまでみてきたように、変化は同時に多くの場所で起こるものであり多大なる労力を必要とする。しかしながら、この機会をとらえる可能性は無限にあり、そのためのサポートも存在している。

ものすごい速さで変化する中で力を発揮できるのが、素晴らしいイノベーションを生み出す企業である。Designit は、複雑な環境を乗り切るためのスピードをクライアントに提供し、 必要に応じた変化をもたらす経験に長けている。例えば、消費者ニーズを明らかにすることを通して社内の変革を促すプログラムの作成から、イスラエルのPepperのように、新しい銀行をいちから立ち上げることまで、様々な方法で、クライアントが時代の変化に対応出来るようサポートしている。
 

ハロー、Pepper!

私たちのクライアントのひとつであるイスラエル第2の銀行 Bank Leumi は、これまでとは根本的に異なる銀行へと進展してゆくことこそが、将来の成功の鍵を握ると考えた。

そこで、国内外のマーケットを揺るがし、次世代のスタンダードとなるデジタル銀行サービスをいち早く実現するべく、Designit に協力を依頼したのだ。

Bank Leumi が直面する課題は過去に例がないものだったので、問題の定義、 デザイン、そして実装するという一連の流れを一から作り上げることになった。そしてこのコラボレーションにより生まれたのが「未来の銀行」Pepper である。

Pepper は手数料無料で基本的な銀行の機能を提供する初のモバイル専用のバンキング・サービスだ。口座の開設や資金の管理、ローンの申し込みや、貯蓄とクレジットカードの管理などをすべてモバイルで行うことができる。


わずか 18ヶ月でこの新サービスの提供を開始するという Leumi の目標を達成するため、Designit ではプロダクトチームと開発チームと密接に協力しながら、リサーチ、アイディエーション、デザインそして製品化という流れを進めた。ここで重要となったのが “記録よりも実行” という考え方だ。これにより、幾重の意思決定やそのための書類作成に時間を割かれることなく、素早くその場で物事を決めることができたため、最初の MVP プロトタイプは2ヶ月で作成することができた。

ユーザーテストにより有効性が確かめられたコンセプトは、継続的な評価用にすぐにプロトタイプ化された。常に改善できるよう、製品とサービスの骨組みはそのままに開発は進められた。

Designit と共に、オープンで素早く、ユーザー中心でやる気に満ちたスタートアップ的な社内文化と体制を作ることができた。全く銀行らしくはないね。

Lilach Bar-David, CEO

 

次はあなたの番

これまで述べてきたように、銀行がB2Cサービスの変革を考える上で重要なのが 、優れたテクノロジーと素晴らしいユーザー体験との融合である。

もはや銀行とは、やる事を意味する言葉であり、行く場所を指すものではない

Brett King, futurist and best selling author (2012)

では、やる気はあるのにどこから手をつけていいのかわからない企業はどうすればいいのだろうか。まずやるべき事は、どのようなところに主要な顧客が使いにくさを感じているのかを適宜明確にして行くことだろう。日本の銀行の顧客によくある不満は、、デジタルサービスのクオリティーに関するものだ。そろそろこのような不便さを解消すべき時ではないだろうか。

社員と、彼らが使うツールも、顧客の経験を左右する鍵となっていることを認識することが重要だ。一般的に、企業内部のプロセスは利用者側にも大きな影響を及ぼすので、社内のこれまでのやり方を見直し、適切なKPIと社内インセンティブを規定することも、軽視されるべきではない。また、部署を超えたコラボレーションはこれら全てのことを実施するにおいて有効だ。

アジャイルを信条とする小規模なチームを立ち上げ、そこから社内全体に良い影響を及ぼすことで抜本的な変革は始まっていく。チャレンジする喜びが生まれるような、やり甲斐のあるテーマに取り組み、さらに全員にとって物事がより良い方向へ進んでいくというビジョンを明確にすることで、携わる人々が変革を誇らしく思えるようになる。こうすることで、時とともにその成果が表面化され 、自ずとユーザー体験の向上につながるだろう。
そして忘れてはならないのは、常に顧客の声に耳を傾け、彼らが自分の選択は正しかったと感じてもらえるよう努力することだ。今やアプリにさえ、簡単に顧客を奪われてしまう時代なのだから。

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